貝塚

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ディオール展

1月中に書こうと思っていたらいつの間にか新年度を迎えていた。忙しさにかまけて先延ばしにしすぎ……

 

1月3日火曜日、美術館の営業開始日にディオール展へ行った。1週間後のチケットを取っておいたはずが、インスタやらツイッターやらで流れてくる写真を目にしていたら我慢できなくなり弾丸訪館してしまった。会館30分前に着いたのに長蛇の列ができておりびっくりした。

 

入場してからクレジットを見て出口をくぐるまで、丸3時間かかった。これ17時の枠で入ったら閉館までに絶対見終わらないじゃん笑。

全部見て最初に思ったことは「シャネルも周年祝いにこういう展示をやってくれ」ということ。そして美術的価値がオートクチュールに劣るのは承知の上で、プレタポルテにも展示の場があってほしいということ。見応えも空間体験も凄まじくボリューミーでそれはそれは楽しかったというわけである。

 

まず展示設計については死ぬほどメディアで目にしていたが、想像以上にめちゃくちゃのめちゃくちゃに凝っていて、例えば一番最初のニュールックの部屋ではクリアチェアが一緒に置かれていてその冷たさから当時の革新性を想起したり、植物モチーフのエリアではぱっと空間が明るくなって温度が上がるような彩度の高い絵画が背景に掛けてあったり、視覚情報と一緒に温度感が伝わってくる仕掛けが多かった。

ただキャプションが軒並み床配置なので首が攣った(屈めばいいんだけどね)のと、「著名人が着るディオール」の部屋ではナンバリング探すのが困難だった。キャプションの存在感を消したいのはよくわかるんだけどさすがにもう少し視認性よくならないもんかね……

あとはせっかく非日常性が保たれた展示空間なのに、地下へ降りるとき一旦外(都現美の建物剥き出しの空間)に出ないといけないのがもったいないなと。構造上諦めざるを得なかったのかもしれないが、一気に現実に引き戻されてしまって少し残念。ディズニーシーから舞浜行きのモノレールに乗ってたらセブンイレブンが見えっちゃったみたいな、そういう落胆があった。

 

そんな趣向を凝らした部屋たちの中でも、やっぱり白の部屋が一番印象的だった。淀みもくすみもない真っ白な壁と真っ白な服と真っ白な照明を360°から摂取して、白(黒)大好きな私にはあまりにも居心地が良かった。富豪だったら今すぐ自宅をリフォームしてあの空間を再現する。これが他の色で再現されたらかなり視認性悪いんだろうけど、白い服たちが白い空間に溶け込みながらもディテールを主張してくれていたので色の力を感じて止まない。

あとは序盤にディレクターごとの展示ゾーンがあったが、笑っちゃうくらい如実なカラーが顕れていて実際ニヤッとしてしまった。個人的な感覚で言うと、いわゆるアート的な鑑賞対象として面白いのはラフシモンズだし服として好みのものはほぼマリアキウリ。ざっと眺めたときに目を惹かれるのはディオールが手がけたものだった。あくまで個人の、大した根拠もない感想だけどもやはりメゾン創設の巨匠(?)ってすごいんだなとふと思ったり。

それから地下に降りて最初のブース(壁掛けファッション誌と香水のCM集展示)は何時間でもいられそうで頑張ってそそくさと出た。例えばMiss DiorのCMを見ていて思ったのは、1976あたりのCMで登場したパケが好きだったなあということ。瓶から吹き出た花弁が女性のドレスになる映像もかなり良かった。翻って1990〜2000年代になると急にモテ文脈CMしかなくなるのどない?別にいいけど、いや良くない、大事な初代フレグランスを「モテ香水」に収斂させてしまってええんすかね……。

似た理由でディオールオムのCMも惹きがなかった。わざわざ他者(こと異性)の視線を介在させる必要ないじゃん。逆にジャンバティスト=モンディーノのj'adoreのCMはとても好き。モデルが堂々と回廊を歩きながらアクセサリーもドレスも脱ぎ去るというシンプルな作品は鎧を脱いだことでかえって強くなるさまがアッパレだったし、カーテンらしき布束をたぐりよせて蜘蛛の糸よろしく建物の天蓋の穴へと登っていくのも良かった。布をたぐって登る過程でチョーカーやハイヒールを取り去り投げ捨ててるのがナレーションの「天国ではなく新しい世界」に説得力を持たせていたのも好印象。そんなわけで今めちゃくちゃj'adoreほしい。

 

ディオール展の総評に移りたいのだが、つい数か月前にシャネル展を訪れたこともあり、どうしてもそことの対比をしてしまう自分がいる。「ディオールとシャネルって女性に人気の老舗メゾン(悪く言えば若い女性が食いつく’’分かりやすいブランド品’’)」的な括られ方をされがちだ、と近年特に思う、けど(クリスチャンディオールとココシャネルが)それぞれ想定する女性像が見事に全然違っていてとにかく面白かったなとは心底感じる。ディオールは女性を美しい花に見立て、それを彩るブーケの装飾や花瓶として服を創っている節がある。他方シャネルは「自由でミニマルな(裸体に近い動きができる)身体表現」を軸としていたから、もうハナから見据えている方向が違うんだよな…… それが今や、まあ日本だけかもしれないが、「かわいいブランドバッグ〇選♡」みたいに雑すぎるラベリングをされ、似たようなモノとして拡散されているなんて知ったらディオールもシャネルもさぞ憤慨することでしょう。

 

ちなみに(優劣つけられるものでもないが)私個人の中ではシャネルが好きだなと改めて思った。私はブーケではなくて気ままに大胆に筋肉を動かす動物なんだぜ、勝手に飾り付けてため息ついてんじゃねえよ、という気持ちがあるからかな。これは「ニュールック」の存在を知ったときからそうなんだけど、ニュールックをまじまじと見てみてもやはり「これってプリンセスラインの焼き直しじゃね?」としか思わなかった。時代背景云々を鑑みてもイマイチその革新性が分からなかったんだけど(まあニュールックと名付けたのはディオールではなくファッション業界で記者やってる部外者だったんだが)、後で調べたらシャネルも「よりによって束縛の時代に回帰してんじゃねえ!!」とブチ切れていたらしい。最高すぎて笑っちゃうね。いくらなんでもあれを「革」「新」と結びつけるのは違くねえか?とずっと思っているし、彼女が憤慨するのも無理はない 当時のシャネルがさまざまな苦境に立たされていたこともあり、ディオールの華々しい成功を目の当たりして嫉妬と悔しさを感じていたのもあるだろうけど、私はそういうシャネルが好きです。

 

あとは今まで行った他のファッション展って展示物との距離感を感じたんだけど今回は誤って触ってしまいそうなくらい剥き出しの展示が多くて、野生の高級仕立て服という感じがして良かった。ああ今も生きてるんだ、と思いながら前横後ろからじろじろ見つめてしまった(ごめんね)。逆に普通の服飾展行ったら物足りなくなるかもしれない。

そういえばシャネル展はかなり厳重に展示と巡回スペースが区切られていたが、開催場所に所以するところも大きそう。腕利きのキュレーターがMOTのスペースをフル活用したらそりゃ敵わないなという印象。ちなみに同時開催のウェンデリン・ファン・オルデンボルフ展は対照的なまでにフラットな展示で、それはそれで楽しめた。

 

細かいことを気にせずにまとめると、「テーマパーク」としては満点でした。1回いや2~3回行ってみて損はないと思う。5月まで開催しているのでぜひいろんな人に訪れてみてほしい。